GP Official ようやく出たか…という感じの、GPマシンのオフィシャルブック。FIM世界選手権ロードレースGPが始まった1949年から2008年まで、500ccからMotoGPにかけての、ロードレースの最高峰クラスにおけるマシンの技術トレンドを書き起こした、記念碑的な著作である。
 ファンからメカニックを経てライターになった私には、1978年以降に若干詰めの甘さを感じさせるページがあるが、それは年ごとの文章量を揃えるため、やむを得なかったのだろう。全編を通じて、よく取材し、咀嚼し、年ごとに内容の粗密を感じさせずにまとめているのはさすがである。

 もちろん、1977年までのページだけでなく、それ以後にも、この本を読んで初めて知った内容はたくさんあり、“ほほう、なるほど、あれはそういう意味だったのか…”と納得したり、“へ〜え、昔はこんなことで悩んでいたのか…”(それと比べりゃ、今のバイクは良く出来ているよな)と感心したりする。
 単純に“何年ごと”ではなく、意味のある時代の区切り方が絶妙で、1949〜2008年を14の時代に分け、それぞれにキャッチフレーズを冠している。それらを並べた目次を眺めわたせば、60年間の技術史を要領よく俯瞰できるシカケである。
GP Official-2 この本のために製作されたと思しき60台のチャンピオンマシンの横位置イラストと、上に書いた14の時代を代表する14台のマシンの解説図は、精密さはさておき、堅苦しくなりがちな技術史の本を楽しく読み進めるものにしている。60台のチャンピオンマシンの諸元表にはいくつか間違いがあるが、些事にとらわれず、ロードレースの最高峰マシンの、60年にわたるおおまかな進化の流れをつかみやすくしている。
 これまで、ロードレースに関する書籍の大半が、個々のレースの展開をまとめたダイジェストか、年ごとのチャンピオンの英雄伝、あるいはもっと長いスパンでメーカーの栄枯盛衰を捉えた歴史物などだった。それとは別に、オートバイのメカニズムに関する技術書や解説書はもちろんあったが、両者の間を埋める、60年間にわたるGPレーサーの技術的変遷をまとめた本はほとんど見当たらなかった。
GP Official-3 2008シーズン終了後にオフィシャルブックとしてこの本が出版されたのは、レース展開やライダーやライディングテクニックだけでなく、今まで軽視されることが多かったマシンそのものに対する興味の高まりと、これからさらに関心を高めていこうという狙いが感じられる。レースやライダーに対してよりも、マシンに対してはるかに大きな興味を持ち続けてきた私にとっても、これはとても嬉しく、歓迎すべきことである。

「The Grand Prix Motorcycle The Official Technical History」
ハードカバー/W240×H290/カラー/
英語/216p/税込価格 5,880円 (本体価格 5,600円)