yamaha ヤマハ発動機創立の年に行われた富士登山レースから1993年(日本のファンにとっては忘れられない原田哲也が世界GP250ccクラスのチャンピオンを獲得した年)までのロードレーサーの歴史を1冊にまとめた本。レースの歴史ではなくマシンの歴史を、500ccやワークスマシンに偏らず、250、350、750ccのマシンについても多くのページを割いて詳述。

 YA-1、YDS-1の改造車からTD1認定車を経て本格的な市販レーサーであるTD1Cに至る黎明期の模様にはじまり、1962〜68年の世界GPワークス参戦と撤退、そして市販レーサーTZシリーズの開発、1973年の500ccクラスへのワークス復帰、TZ750/500の開発、1985年の250ccクラスへのワークス復帰…と、連綿と続くヤマハのレース活動を、マシンにスポットを当てつつ詳述した好著である。
 テッド・マッコーレーの“YAMAHA”も、ロードレースに相当のページを割いてはいるが、マシンそのものに関する記述は(1970年代後半〜80年代前半あたりの500ccを除き)浅く、マシンに大きな興味を持つ読者には、このコーリン・マッケラー版のほうがはるかに読みごたえがあるはずだ。
 1979〜85年にTZ250、86〜87年にYZR250の担当メカニックをした後、88年以降は取材する側に回った私にとっても、今まで人に聞いたり断片的な記事で読むしかなかった1955〜79年のマシンについて、これほど詳しく、開発の経緯や歴史的背景を含めてわかりやすく解説している本は他になかった。
 TD1に始まり、年ごとに急ピッチで性能を高めていった250ccの市販レーサーが、なぜ、'76年からの3年間にはほとんど進化しなかったのか、その後突然姿を現わした'79年型のワイドフレームはどうやって開発されたのか、片山敬済のワールドタイトル獲得の武器となった3気筒のTZ350はどういった経緯で登場したのか…などなど、レース結果や広報資料を眺めていただけでは決して知り得ないレース史の裏面を明らかにしている。
 世界GP250ccクラスが“プライベーター天国”と称された最後の1984年、福田照男のメカニックとしてヨーロッパラウンドを転戦した私が読んでも、この年のTZ250が抱えていた諸問題や各チームの対応策などが詳細かつ正確に記述されており(福田照男の名前が出ていないのは大いに不満ではあるが)、著者の取材力に敬意を表したい。
 YDS1R、3気筒のTZ350、TD1CのエンジンをRD56のフレームに積んだ試作車、GP250クラスにも出走したケニー・ロバーツの1978年型TZ250、各種のTZ/YZR750など、貴重な写真の数々にも驚かされる。

「YAMAHA : All Factory & Production Road Racing Two-Strokes from 1955-1993」
ハードカバー/W200×H260/カラー・モノクロ/
英語/191p/ 税込価格 4,830円 (本体価格 4,600円)