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「つくづく思うこと・・・本音」

 最近、本音で書かれた良い本が出始めていますが、非常に少ない。もっとそんな本がたくさんあって、それが書店の店頭で山積みになっているべきだと思うのですが、そうでないのはなぜかわかりません。出版社が、大手卸が、巨大産業に気を使っているのではないかとしか思えません。例えば日本では自動車産業が基幹産業であるという認識を、鵜呑みにしていて誰もが疑わないということがおかしい。だいたい自動車産業は、全産業の流通をサポートするための輸送機械(例えば、新幹線ののぞみ並みのバスとか、無公害トラック)としてのクルマ作りがメインでなければならないはずで、普通乗用車が生産の大半であるなどおかしい。一体こんなに乗用車が必要なのか、年末年始の高速道路の渋滞を見て考え込みます。自動車メイカーが似たようなものをこれ見よがしの広告でアグレッシブに表現すれば、日本人はよく見極めず迎合して、みんなが買って、結果、巨大産業にさせてしまっているだけです。どのクルマメイカーの切り口も、価格そこそこ、便利で楽がキーポイントで、メイカーの主体性と社会性ある意思を感じません。ヒットラーがフェルディナンド・ポルシェに命じてビートルを作らせたように、トヨタの奥田会長が、究極のカローラをトヨタの総力を上げて開発させれば、素晴らしいものができるはずです。そしてそれが文化の一部としての存在になりえていくはずです。そんな究極のカローラ以外は、大メイカーではなく、個性ある中小の企業が特定の目的に絞ったクルマを作るほうが良いのです。しかし、どの大メイカーも右肩上がりの経済成長期のスタンスから抜けきれず似たような商品を作り続け、行政もそれを支持し、ほとんど無意識に受け入れる大衆の感受性の欠如はあきれるばかりです。
 オートバイ産業も変です。GPレーシングマシンもどきの使い切れない性能を、各メイカーは誇って、広告のメインにして取材させていますが、2003年に何が売れたのか二輪車新聞のデータを見て愕然としました。大型二輪はCB1300SFがダントツで、大型の外車はハーレーのスポーツスター系がメインといってよく、中型二輪はCB400F、ドラッグスター、SRの3機種が飛びぬけていて、軽二輪はスクーターのみという状況です。面白いことにこれら全て新しいものではありません。こういったユーザーに支持されているものたちを、いかに向上させるかが最もメイカーの主要な仕事であるはずなのに、売れているものはそれでいいというのでしょうか、アグレッシブには良くなってきているとは思えません。
 ここに面白い本があります。工業製品をけなすことで飯を食おうと決意し執筆したボンバー池田さんの『クルマ業界さん、いい加減にしてください』というもので、電気自動車・ハイブリッドカー・燃料電池車について、徹底して甘いところ、あえて隠しておきたいところを突いています。毒舌でスタートするページをめくっていくと、池田さんはご自分で音響理論と電気回路、あらゆる電子部品に詳しいのだと自負するだけのことあって、わかりやすい。何しろ非効率な動力源でただでさえ重量のあるものを、排気ガスがクリーンという、良いことだけを前面に出して宣伝しているメイカーの、それを讃える評論家のお題目を撃破しています。こんなに言い過ぎて良いのだろうかと思う部分が多々ありますが、何か危機感を持って書いているように思えます。あとがきで池田さんは言っています。「あまりにも石油から作られる液体燃料が優れすぎていたからクルマがこんなに世界中に普及したのだ。エネルギー密度が蓄電池やら圧力容器が必要な天然ガスや水素と比べ、桁違いの性能なのは、これらのものを動力として飛行機を飛ばせられないという絶対的な事実が証明している」と。だからといって限りある資源なのだからこれでよいと言ってはいません。でも、内燃機関の好きな私にとってうれしくなる一冊です。このような本は講談社や小学館からは出版されないでしょう。
 もう一冊、毎日新聞経済部が編集した『日本の技術は世界一』があります。1999年から2000年にかけて連載された「日本の中の世界一」をまとめたもので、日本企業が有する世界一、世界初の製品、技術はこんなにあるし、小さな会社でも世界のシェアの大半を握っているところがたくさんあることにびっくりします。ここに紹介されたもの以外に、もっと数多くあるでしょうから、いろいろな企業がリンクすれば素晴らしい製品が生まれる予感がします。中規模の企業が無くなり、大企業と小企業だけになりつつある現在、まず大切なのは池田さんのように何をも恐れぬ強烈な批判精神を持つことであり、世に問うことです。これは足を引っ張るということではありません。そして、小さな会社でも培っている素晴らしい製品や技術をいかにジャーナリズムがインフォメーションするかにかかっているのでしょう。みんなができるだけ、本当のことを知ることです。

クルマ業界さん、いい加減にしてください
ボンバー池田 著/アートブック本の森 発行/285p
日本の技術は世界一
毎日新聞経済部 著/新潮文庫/235p