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Lotus Esprit Turbo vs Ferrari 308

P130〜P133 「Classic & Sports car」 Aug 2008

500E  p130<Lotusエスプリ> 【 エンジン 】  2.2リットル4ポットエンジンから、しっかりと確実に210bhpを稼ぎ出すことを可能にしたエンジニアリングの功績は、賞賛に値する。私はフェラーリのV8エンジンについては、その俗っぽさには、いささかげんなりさせられてしまうのだが、その私でもやはり単純に納得できないのが、4つなどという気筒数はスーパーカーを造るに足るのかどうかという点である。  わが主張を守るために、読者諸氏には観客席で耳をそばだてていただくことにしよう。なぜなら、ロータス912ターボのエンジンは、低速域では、特別なそれらしい音を聞かせてくれることなど皆無だからだ。むしろ、まるで古ぼけたどこかのスポーツ車のポンコツ4気筒が出す音に聞こえるかもしれない。やがて912の音は、ギシギシと音域を上げていくのだが、これからエキサイティングなサウンドになるか?とうい期待は一瞬にして裏切られる。デロルトのツインキャブが吹き出す一方で、あの巨大なギャレットT3ターボチャージャーが邪魔をするからだ。唯一の長所といえば、走り過ぎる時にかわいらしくゴニョゴニョした音を立てるところだろうか。その代わり、しっかりその現場を見張っていないと、エスプリが横を通りすぎたなんて誰も気づかないだろうが。  おそらく私は子供の頃に『トップトランプ』(訳注:有名なカードゲーム。「スーパーカー」などさまざまなシリーズがある)で遊びすぎたのだろうが、他にも細々した部分でどうにも得心がいかないということが多い。  それでも、少なくともエンジンベイでは「4気筒」の外観は印象的なものである。縦置きで45度に傾斜しているので、エンジンベイの横から見るとまるでV8のようだし、マニホールドの表面はどこもかしこも可能な限りびっしりと冷却フィンが切られていて、別にインタークーラーを置く必要がなくなっている。そうはいうものの、ここでは何一つ節約したり流用したりといったことは行われておらず、長い開発期間が費やされたこと(もちろん多額の資金も)は明らかである。 (★★★★★★★)

【 ドライブトレイン 】  ロータスは自らのエンジニアリング力が不足しているがために、トランスミッションを求めて他の大メーカーに侵入し、いつも棚から盗んできてしまう。その結果として、時にはお世辞にも理想的とはいいがたい妥協案で我慢することになるのだが、シトロエン+マセラティから譲り受けてエスプリに採用した、5速トランスアクスルは例外である。シトロエンSM用のサイズはゆったりと広く、ターボチャージャーを搭載することもできたので、結果としてエスプリS1およびS2には理想的だったのだ。パワーの向上により、より高いギア比を採用できたわけだが、ここではシンプルにリアタイヤの口径を大きくするに留めている。メカニカルな面での変更といえば、クラッチ径を1インチ大きくした点だけだ。  ギアシフトは明らかに軽く、スプリングがきいているし、ギアの噛み具合も驚くほど明快だ。乗り手の左手からエンジンのどこか向こう側まで続いている、そのリンケージの長さとルートを考えると驚くべきことだ。初期のエスプリから大幅に改善され、リンケージには新たなセクションが加わったので、お陰でもっと遊べるようになっている。  フェラーリとは異なり、ロータスは一般的な5速シフトゲージを採用したので、1速が飛び出したドッグレッグパターンではない。ただし、リバースに入れる時はレバーを持ち上げてから右に持って行き、さらに後ろへ戻すことになり、これはコツをつかむまではなかなかつなぎにくい。  クラッチはとても長く、あまり手ごたえがないので噛むポイントがわかりにくいが、慣れさえすれば心配には及ばない。正しく操作できるようになると、エスプリは通勤などの街乗りに良さそうだとさえ思えるはずだ。 (★★★★★★★★)

p131<Ferrari308> 【 エンジン 】  フェラーリ族に属する人々の中には、V8を見下し、「適正な」フェラーリはきっかり12気筒搭載していなければならないという、中途半端な思想のようなものに捕らわれている人たちがいる。もしも、このような俗っぽい姿勢の人々が、308の値段を実用的なレベルに留めるのに一役買ったとしたら、それはそれで存在意義を見出せたというものなのだが。私自身はというと、フェラーリはみなフェラーリなのであり、当然のことながらV8もまたフェラーリなのだという立場である。 だからといって、このフェラーリのエンジンはV8らしい音はしないのだが。少なくとも4000回転以下ではそんな音はしない。またどの回転域でも、「アメリカのカラオケ音源」式で快音を響かせることもない。これは、フェラーリが採用しているシングルプレーンクランク設計による、独特な点火パターンのせいである。なお、この3リットルエンジンは、V12の3分の2と見なすことができるが、実際のところボア×ストローク(81×71mm)は365と共通である。ただし、このユニットの祖先をさかのぼれば、あのF1マシンのV8にたどりつくのだが。  エンジンは、運転席からほんの数インチ後ろに横置きされているので、ドライバーにとっては、いま何が起きているのか見当もつかないなどということはない。低速域でゴニョゴニョと言うこともないが、その代わりエンジンノイズよりもギアの立てる音のほうが耳につくはずだ。しかし、回転域を上げていくと、ウェーバー製キャブが吸入するうなり声が響き、甲高い雄叫びを上げながら戦闘モードに入る。その盛り上がりは押しつけがまくはなく、乗り手をニヤニヤさせ続けるのにちょうど良い加減だ。インジェクションモデルになってからは、この効能はいくぶん殺がれてしまったが。  クルマの外にいる者にとっては、そのエンジン音は耳にしただけでのぼせあがってしまうようなものだ。誰でも決まって何が起きているのか見てみたくなり、否が応でも目が釘付けになってしまう。 (★★★★★★★★)

【 ドライブトレイン 】  エンジンの下に隠れて、フェラーリ308の5速ギアボックスとファイナルドライブが、3つのステップダウンギアを介してパワーを供給されている。エンジンが暖まって元気に回り、すべての音をかき消すようになるまでは、トランスミッションから発生らしいきしみ音が聞こえてくる。  トランスミッションはタフという定評を得ているし、ギア比も考え抜いたうえで選択されているが、それでもやはり短所はある。たとえば初期のマシンでは、エンジンスタート時にクラッチが非常に重く固くなる。またセカンドギアは、ギアボックスが冷えているうちは無視するのが一番の得策だし、もしも暖まったとしても、つなごうとするとかなりうんざりしてしまう。だから308オーナーたちは、たいていセカンドをスキップし、ドッグレッグパターンのシフトギアを、ファーストからいきなりサードにつなぐ習慣がつく。それでも、このエンジンなら低速トルクは十分だから、走る楽しみを大幅に奪われるなどということは起こらないのだ。 実際のところ、クローム仕上げのボールトップシフトレバーを、この伝統的なオープンゲージの中で移動させる際には、それがどのギアからギアへの移動であっても慎重さが要求される。それはカチカチと軽快に動かせるものではなく、むしろ押すか引っ張るかという動作が必要となる。不快ということではない。この動作は、乗り手とマシンが絆を結ぶプロセスの1つに含まれているのだ。  1980年、フェラーリはギアボックスをインジェクション仕様の308用にモディファイした。それと同時に、クラッチの操作性も向上した。しかし、それでも試乗ドライバーたちがその重さとセカンドギアの問題についてコメントすることが、完全に無くなったというわけではない。ただし、もしも私たちのテストがもっと後期の車両で行われていたなら、このセクションでの評価は、間違いなくまったく違ったものとなっていたことだろう。 (★★★★★★★)

p132<Lotusエスプリ> 【 パフォーマンス 】  慣性の法則によって308に対して優位に立ちつつ、4気筒マシンのターボチャージャーは、その冷酷なまでの効率の良さをわれわれに知らしめる。ターボによる効率の良さというものは、ガソリンスタンドの燃料ポンプメーターでも、代金がかなり浮いたと気づくような類のものである。これは、今日でこそ注目されるべき点だが。  エスプリの真に賢く優れた点といえば、素晴らしく良く造りこまれたターボシステムである。当時、他のメーカーは、人をイライラさせるターボラグを不可避なものとして依然として受け入れていた。ところが、ロータスはこれをほぼ完璧という域にまで、開発設計したのである。このターボの初期の時代といえば、まだそんなふうに急激にパワーを高める仕組みは他になかったから、ターボといえば雨の日に運転すると危険な目に遭うものと思われていた。  ところが、エスプリのパワーはじわじわと高まるように設計されていて、ずっと低い回転域、だいたい2000回転くらいから落ちるようになっている。それでもまだ、驚くほどの勢いでパワーが増大していくので、このままだとアクセルペダルにしっかり押し付けた足が、今にも自分から逃げ出し目の前の物に向かって行ってしまいそうな感覚に襲われる。  高速域に入ると、GPサーキットで経験を積んできたロータスならではの、また別の妙技を体感できる。空力特性が突然その存在を現し、車体を路面に押し付けるようになるのだ。そして、マシンを減速しようとすると、ここでも物理法則が一役買ってでる。見事というほかないブレーキは、高速時にドラグシュートを開いたかのような制動力を生み、走り手に揺るぎない大胆さを与えてくれる。そして、フェラーリ308のブレーキと同等であることをあっさりと示してくれるのだ。 (★★★★★★★★★)

続く
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